キーンコーンカーンコーン

わたしは闘馬と出会った日のことを思い出しているうちに、1限目の終了のベルが鳴っていた。わたしはあの日不良少年との喧嘩の際に吐いた闘馬の暴言について、一言文句を言ってやろうと闘馬の方を向いた。

ところがわたしが言葉を口にしようとした瞬間、クラスの野次馬根性丸出しの生徒が闘馬の周りに一斉に群がって取り囲んでしまった。

「初めまして、俺の名前は吉永。よろしくな」
「よろしく」
「初めまして、長谷部君って~」

キャッキャッ、ガヤガヤ、ワイワイ。
わたしはその様子を見て呆れてしまい、後で落ち着いてから話しかけることにした。


しかし結局ずっと闘馬の周りには人が群がっていて、あの日の話題を切り出せるような雰囲気ではなかった。次の授業も、その次の授業が終わった後も、闘馬に興味をもつ生徒たちが闘馬のもとに集まってくる。

全く、転校生が来たぐらいでみんなどうしてこんな奴に浮き足立ってるのかしら。しばらくはこんな状態が続くのだろうか。

友達のみいがわたしのもとに駆け寄ってきて
「や~わら、どうしたの?何か顔が疲れてるよ?」
「えっ、ううん。何でもないよ」
「次体育だよ、早く着替えて準備しよ」
「そうだった、今日の授業はバレーだっけ」
「うん、同じチームだよ。ガンバロー」

体育の授業が始まり、準備運動をしてわたしたちはバレーのコートに向かった。女子はバレーだが、男子は外のグラウンドでサッカーの授業である。しばらくすると、外のサッカー場の方を見ている女子の軍団が黄色い声援をあげていた。

「キャー、かっこいい」
「新しく来た転校生闘馬君だっけ?サッカー上手いね」
「うんうん、背も高くてスタイルもいいし、様になってるよね~」


サッカー場では、うちのクラスの男子と隣のクラスの男子が試合をしていた。
「パスだ、行け!闘馬」

闘馬は男子生徒からのパスを受け取り、ゴールへと走る。

「させるかぁ」

闘馬をゴールへ行かせないために男子生徒二人がボールを奪いに来るが、闘馬は涼しい顔をしてひらりひらりと二人のディフェンスをかわし、華麗にシュートをゴールポストに決めた。

その瞬間、隣のミーハー女子軍団から
「キャー」
と黄色い声援があがった。正直うるさい。というか、バレーの授業なんだからこっちに集中して欲しい。

同じくその様子を見ていたみいが話しかけてくる。
「転校早々にすごいね。一気にファンが増えちゃったんじゃない?」
「そうね~」
正直あいつにファンがつこうが、わたしにはどうでもよい。


次の休み時間は体育の授業を終えた闘馬のもとに、サッカーでの活躍をみていた男女が群がった。
「闘馬すげーな、サッカー部だったの?」
「いや、別に」
「そうなの~、さっきサッカーの試合見てたけど闘馬君超~上手かったよ!」
「だよな~、ディフェンス二人もかわしてさ」
「闘馬うちのサッカー部入れよ。お前の実力ならすぐレギュラーだぜ」
「だよ~、うちの弱小サッカー部ならすぐにレギュラーだよね」
「まだ部活決めてないよな?」
サッカーの腕前を見たサッカー部男子から、早速闘馬にスカウトの声がかかる。

「悪い、俺は部活に入る気ないから」
「えぇ~!!」

その場にいる男女全員が驚きの声をあげた。

「サッカーだけじゃなく、何の部活も入らねぇの」
「もったいな~い」
「せっかくあんなに上手なのに~」
「残念だな」

「気楽な帰宅部がいいよ」
周りの惜しむ声をよそに闘馬は答えた。

あんなにスポーツ万能な闘馬が何の部活も入らないなんて意外だと思いながら、わたしは少し離れたところから様子を見ていた。するとふいに闘馬と目が合ってしまい、ドキリとして目を逸らす。そんなわたしのことを気にする様子もなく、闘馬は周りの友達と会話を続けていた。


夕方になり、結局わたしは闘馬と話をする機会がなかった。わたしは5限目の授業が終わったらすぐに、道場の稽古のために帰宅の準備を始めた。身支度を終えて、いつものようにみいと佐紀にさよならをして教室を出た。
「じゃあ、また明日ね」


駆け足で教室を出ると、ちょうど闘馬も帰宅の準備を終えて廊下を歩いていた。闘馬を取り囲む生徒もいなかったため、ちょうどいいタイミングだと思い話しかけた。


「ちょっとあなたに一言いいたいことがあったのよ。前回『女は喧嘩にしゃしゃり出るなとか失礼なこと言ったわよね」
「ああ、あの不良グループの喧嘩のことか。そういえば、そんなこと言ったな」
「女だからって、ある意味差別だからね」

闘馬は不意をつかれたような表情をして何か話そうとしたが、わたしは言いたかったことをついに言ってやったのですっきりした。そして闘馬に向かって、あっかんべーをして足早にその場から立ち去ってやった。

闘馬はそんなやわらに呆気にとられつつも、
「ったく、何だよあいつ。しかもあっかんべーってアホか」
とぼやいた。残された闘馬のもとに、帰る準備ができた女子生徒たちが集まってきた。

「あっ闘馬君も帰り?帰りはバス?電車?」
「あぁ、電車だけど」
「良かったら、途中までうちらと一緒に帰ろうよ」
「まあ、いいよ」
「やった~、寄り道してく?」
「いいねいいね、楽しそう」


「せいやー」
ドカッ!わたしの蹴りをくらい、弟子の鈴木が勢いよく吹き飛んでいった。闘馬とのこともあり、今日のわたしはとても気合が入っている。
「まだまだいくよ、どんどんきなさ~い」
わたしに向かってくる弟子達を、わたしはどんどんとなぎ倒して行く。女だからって馬鹿にして、もっともっと強くなってあいつを見返してやるんだから。


その様子を見ていた窪田とその弟子たちは、
「何だかやわらさん今日はやけに気合入ってるな~」
「学校で何かあったのかな、ははは」
と苦笑いを見せた。