「せい!」
「とう!」
チュンチュンと鳥の声さえずりが聞こえる早朝、道場からは元気な掛け声が響く。彦流道場の弟子達とやわら、朝から稽古の鍛錬に励む姿である。
稽古後に道場の床を雑巾がけしていたわたしに、彦流道場の弟子である鈴木が話しかけてきた。
「やわらさん、今日もお疲れさましたっ!」
「はい、鈴木さんもお疲れさまでした。あ、いけないもうこんな時間だ。それではお先に失礼します。」
稽古場の掃除が終わると、わたしは急いで家を出た。わたし田中やわらは今年の4月から緑ヶ丘高校に通う高校一年生。入学から1ヶ月経ち、学校にも少し慣れてきた。
教室に到着すると、わたしの友達であるみいと佐紀がわたしの姿に気づいて挨拶してきた。
「おはよ、やわら」
「おはよ~、今日も稽古だったの」
「おはよ~、みい、佐紀」
みいと佐紀は、幼稚園から高校までずっと一緒の仲良しである。みいは誰にでも好かれるような人懐っこい性格だがどこかヌケていて、反対に佐紀はしっかり者で頼りがいのあるまとめ役である。
「やわらはすごいよね。朝早くからいつも稽古して。」
「まあ、もう日課みたいなもんだからね。」
「ほんと尊敬する。私なんか何もしてないのに朝起きるのが辛いわあ。」
「みいの場合は、夜更かししすぎて辛いんでしょーが」
いつものようにたわいない会話をしていると、クラスで会話をしている男女の声がわたしの耳に入ってきた。
「おい、聞いたか。うちのクラスだってさ」
「え~、ほんと。楽しみ」
「男子?女子?どっちかな」
わたしはいつもよりざわつく教室の様子に異変を感じ、みいと佐紀に話しかける。
「何だか騒がしいね」
するとミーハーで情報通のみいが答えた。
「噂に聞いたんだけど、うちのクラスに転校生来るらしいよ」
「男子生徒なんでしょ。かっこいい人だといいな」
「ふーん」
はしゃぐみいと佐紀とは対照的に、わたしは興味のない返事をした。武道一筋のわたしにとって、イケメンだの恋愛だのといったチャラい話題は好きではない。というか、苦手といったほうがいいだろう。
わたしの通う高校は、地元のみんなが集まる高校なので顔見知りが多く、メンバーにそれほど変化はない。そのため転校生が来ることは、田舎の学校にとって一大イベントである。そのためか、朝からクラスはざわついていた。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、先生が教室に現れたのでみんながそれぞれ席につく。
「おはようみなさん。それでは各自席についてください」
「起立、礼。おはようございます」
「おはようございます」
「着席」
「おはようございます。これより朝の連絡に入ります。その前に、本日よりみなさんに新たな友達が加わります。長谷部君、入って」
「はい」
クラスのほとんどの生徒は待ってましたとばかりに教室の入り口に期待の目を向ける。先生に呼ばれて一人の男子生徒が教室に入り、クラスがざわついた。
「きゃー、超イケメン」
「かっこいい」
「わたしタイプかも」
先生に紹介を受けて、その男子生徒は自己紹介をした。
「長谷部闘馬です。よろしくお願いします。」
転校生が誰だろうがわたしには関係ないし、全くイケメンだのなんだのきゃあきゃあ言ってとクラスの女子に呆れつつ、ふと顔を上げてわたしは転校生の顔を確認した。
「えっえええええええええーーーー!!」
思わず大きな声をあげてしまい、クラス中がわたしを見て驚いた。
「どうしたの田中さん、大きな声出して」
「い、いいえ、なんでもありません。」
先生に指摘され、私は赤面した。
「わっははは」
クラス中がどっと笑いに包まれる。
近くの席のみいが心配して私に話しかけた。
「どうしたのやわら」
「えっ、な、なんでもないの」
何でもない、あいつとは何でもないのだ。というか、あんな出来事があったなんて恥ずかしくてこんな場所では言えない。転校してきた長谷部闘馬はにやりと笑いながら、わたしを見てきた。私は顔から熱を感じながら、思わず下を見て目をそらしてしまった。
私の席はちょうど教室の窓側後ろの席で、隣の席が空いていた。先生は私の隣の席を見ると、さらに私にダメージを与える発言をした。
「長谷部君の席は、ちょうど田中さんの隣が空いているわね。そこに座ってください」
「えぇぇえぇ~」
私は思わず声に出してしまった。
「田中さん、静かに」
「はい、すみません」
取り乱すわたしに、またクラスに笑いが起こる。
コツコツコツ。
闘馬は教室の後ろの席に歩いてきて、私の顔を見てにやりと笑いながら挨拶をしてきた。
「同じ学校なんだ、これからよろしく」
わたしはムッとした表情をしつつも、
「よ、よろしく」
と答えた。
全く、何なのよ。よりによって私と同じクラスに転校してくるなんて~!最低だわ。
「とう!」
チュンチュンと鳥の声さえずりが聞こえる早朝、道場からは元気な掛け声が響く。彦流道場の弟子達とやわら、朝から稽古の鍛錬に励む姿である。
稽古後に道場の床を雑巾がけしていたわたしに、彦流道場の弟子である鈴木が話しかけてきた。
「やわらさん、今日もお疲れさましたっ!」
「はい、鈴木さんもお疲れさまでした。あ、いけないもうこんな時間だ。それではお先に失礼します。」
稽古場の掃除が終わると、わたしは急いで家を出た。わたし田中やわらは今年の4月から緑ヶ丘高校に通う高校一年生。入学から1ヶ月経ち、学校にも少し慣れてきた。
教室に到着すると、わたしの友達であるみいと佐紀がわたしの姿に気づいて挨拶してきた。
「おはよ、やわら」
「おはよ~、今日も稽古だったの」
「おはよ~、みい、佐紀」
みいと佐紀は、幼稚園から高校までずっと一緒の仲良しである。みいは誰にでも好かれるような人懐っこい性格だがどこかヌケていて、反対に佐紀はしっかり者で頼りがいのあるまとめ役である。
「やわらはすごいよね。朝早くからいつも稽古して。」
「まあ、もう日課みたいなもんだからね。」
「ほんと尊敬する。私なんか何もしてないのに朝起きるのが辛いわあ。」
「みいの場合は、夜更かししすぎて辛いんでしょーが」
いつものようにたわいない会話をしていると、クラスで会話をしている男女の声がわたしの耳に入ってきた。
「おい、聞いたか。うちのクラスだってさ」
「え~、ほんと。楽しみ」
「男子?女子?どっちかな」
わたしはいつもよりざわつく教室の様子に異変を感じ、みいと佐紀に話しかける。
「何だか騒がしいね」
するとミーハーで情報通のみいが答えた。
「噂に聞いたんだけど、うちのクラスに転校生来るらしいよ」
「男子生徒なんでしょ。かっこいい人だといいな」
「ふーん」
はしゃぐみいと佐紀とは対照的に、わたしは興味のない返事をした。武道一筋のわたしにとって、イケメンだの恋愛だのといったチャラい話題は好きではない。というか、苦手といったほうがいいだろう。
わたしの通う高校は、地元のみんなが集まる高校なので顔見知りが多く、メンバーにそれほど変化はない。そのため転校生が来ることは、田舎の学校にとって一大イベントである。そのためか、朝からクラスはざわついていた。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、先生が教室に現れたのでみんながそれぞれ席につく。
「おはようみなさん。それでは各自席についてください」
「起立、礼。おはようございます」
「おはようございます」
「着席」
「おはようございます。これより朝の連絡に入ります。その前に、本日よりみなさんに新たな友達が加わります。長谷部君、入って」
「はい」
クラスのほとんどの生徒は待ってましたとばかりに教室の入り口に期待の目を向ける。先生に呼ばれて一人の男子生徒が教室に入り、クラスがざわついた。
「きゃー、超イケメン」
「かっこいい」
「わたしタイプかも」
先生に紹介を受けて、その男子生徒は自己紹介をした。
「長谷部闘馬です。よろしくお願いします。」
転校生が誰だろうがわたしには関係ないし、全くイケメンだのなんだのきゃあきゃあ言ってとクラスの女子に呆れつつ、ふと顔を上げてわたしは転校生の顔を確認した。
「えっえええええええええーーーー!!」
思わず大きな声をあげてしまい、クラス中がわたしを見て驚いた。
「どうしたの田中さん、大きな声出して」
「い、いいえ、なんでもありません。」
先生に指摘され、私は赤面した。
「わっははは」
クラス中がどっと笑いに包まれる。
近くの席のみいが心配して私に話しかけた。
「どうしたのやわら」
「えっ、な、なんでもないの」
何でもない、あいつとは何でもないのだ。というか、あんな出来事があったなんて恥ずかしくてこんな場所では言えない。転校してきた長谷部闘馬はにやりと笑いながら、わたしを見てきた。私は顔から熱を感じながら、思わず下を見て目をそらしてしまった。
私の席はちょうど教室の窓側後ろの席で、隣の席が空いていた。先生は私の隣の席を見ると、さらに私にダメージを与える発言をした。
「長谷部君の席は、ちょうど田中さんの隣が空いているわね。そこに座ってください」
「えぇぇえぇ~」
私は思わず声に出してしまった。
「田中さん、静かに」
「はい、すみません」
取り乱すわたしに、またクラスに笑いが起こる。
コツコツコツ。
闘馬は教室の後ろの席に歩いてきて、私の顔を見てにやりと笑いながら挨拶をしてきた。
「同じ学校なんだ、これからよろしく」
わたしはムッとした表情をしつつも、
「よ、よろしく」
と答えた。
全く、何なのよ。よりによって私と同じクラスに転校してくるなんて~!最低だわ。