「なんもないよ」
「連絡も?」
「うん」
そう言ってスマホを見せる。
メール欄にある部長の名前は随分と下に位置している。
「自分から送ればいいのに」
「無理だよ。今更だし」
スマホを鞄にしまって、カフェオレを口にした。
ふと思い出した。
部長にパシリされたあの日を。
私、間違えたちゃったんだよね~。
「なにを?」
「へ?」
「何を間違えたの」
あらま、心の声漏れちゃってたのね。ハズっ。
はぐらかしてももう過去の話だから、素直にあの日の出来事を話した。
話し終えると真凛は背もたれに体を押し込むように遠のいた。
ほんの少し離れた私との距離から、ニヤリと笑う彼女。
一体何を言うのやら、内心ドキドキした。
あまりにもこの間と視線に耐えきれず口に出す。
「な、なに」
「鬼口部長、ほんと美紅のこと好きだよね、と思って」
「……は?」
「それに気付かない美紅はもっと酷いよね~。てか、もう結婚しててもおかしくないよ。もったいない」
真凛から出てくる言葉は重々しく、意味不明だった。



