それがきっかけで、タケちゃんと二人で会うことが増えた。

タケちゃんは、受験生だっていうのに、下校中、わたしを見かけると「漫画新刊買った」「テストどうだった?教えようか」とか色々な理由でわたしを家に誘った。

タケちゃんちには、誰もいないことが多くて、聞いたら、お母さんは違う家にいるって言われて、なんとなく深くは訊いていけない事情があると察した。

変わりにでぶんとした小豆は、タケちゃんの側をちょろちょろ歩いて甘えている。
それから、タケちゃんの両親の離婚が正式に決まったとお母さんから聞いたのは、彼が高校に進学する前のことだった。



わたしがタケちゃんのお母さんを最後に見たのは、タケちゃんが高校生になって間もない頃だった。
借りた漫画を返そうと、彼の家のインターホンを押そうとした瞬間、ドアが開いておばさんが驚いた顔で立っていた。

「美優ちゃん。ごめんね。びっくりさせて」

トレンチコートの襟をたてて、タイトスカートを履いている。
保険の外交員をやってるって聞いてたから、パリッとした格好で歩いているのを何度か見かけた。
いつもと変わらない姿。だけど、左手には大きな猫用のキャリーバッグを持っていた。か弱い鳴き声がして、小豆が中にいるんだとわかった。

「……あれ? 小豆どこか行くんですか?」
「うん。やっぱりちょっと気になっててね。ほらもう老猫でしょ?男達に任せたら大変だし、かわいそうだなって思って、引き取ることにしたの」
「えっ……でもタケちゃんに懐いてたから」
「そうなんだけどね。やっぱり看取ること想像すると、かわいそうだから」

清々しく言うものだから、そういうものかと納得した。