「ただいま……」

 真は玄関のドアを開けた。


「おかえり、真」

 海斗が顔を出した。

 真の大きな体の後ろに、人影が現れた。


「海斗、お客さん……」


 真が、体をずらすと男が玄関の中に入った。


「山中さん……」


「海斗!」

 山中は海斗に手を差し出したかと思うと、そのまま強く抱きしめた。


 海斗はそれほど驚いた様子も無く、山中の横顔を見ていた。


「すみませんでした」


「本当に…… 無事で良かった。心配したんだぞ!」


「俺……」


「もういい…… これからの事はゆっくり考えよう……」

 真は二人の様子をじっと見ていた。


「俺…… ここに居たい……」


「分かった……」

 山中が肯いた。


 黙って聞いていた真が、突然声を上げた。


「冗談じゃねぇよ! もう出て行ってくれ!」


「真……」

 海斗も中山も驚いたように、真を見た。


「どんだけ、皆に迷惑かけていると思ってんだよ! 中山さんが、どんな思いで海斗を探していたか知ってんのかよ!」


「真君……」

「もう、これ以上はごまかしも効かないんじゃないのか?」

 真は、伺うように山中を見た。


「ああ…… 本当の事言うと、もう限界だ…… 海斗、帰って来て欲しい……」

 山中は海斗の目を逸らさずに見つめた。


「山中さん…… 俺……」


「海斗…… 今なら、母さんもあんたと暮らせて、いい夢を見た程度で済むんだ…… これ以上、一緒にいたら、僕も母さんもあんたと離れられなくなる……」


「真……」


「僕、まだ小さかったけど、父さんらしき人が出ていった時の事覚えているんだ…… 母さん、凄く泣いて…… でも、泣き終わったら、めっちゃ笑顔で僕を抱きしめて…… それから、一度も泣いた事ない…… もう、母さんの泣く姿、見たくないんだ…… だから、出て行って欲しい……」


 唇を噛みしめて下を向いている真を、海斗は力強く抱きしめた。


「ありがとう……」