柚奈は仕事から戻り、アパートの玄関を開けた。

 海斗がまだ居るのか気になる…… 

 キッチンを見ると綺麗に片付けられていて、鍵はテーブルから無くなっていた。

 ベランダから気持ちのいい風が入ってくる。

 干してある洗濯物が揺れる先に、海斗の姿が見えた。


 海斗の背中に、柚奈の胸が高鳴る。

 柚奈のこの胸の高鳴りは、アイドルに向けてのミーハーな物で無い気がする。

 でも、そんな事を認める程、無駄に歳を重ねた訳でない…… 

 感情のコントロールくらい出来る技は身に着けてきた……



「ただいま……」

 柚奈はそう言うと、洗濯物をよせ始めた。


「おかえり…… 俺も手伝う……」


「いいよ……」


「じゃあ。俺と真のだけたたむわ……」


 柚奈の顔は赤くなり、慌てて自分の下着だけ隠した。


 海斗は柚奈の動きに、気付いたのかは解らないが……


「ねぇ、柚奈さん。この辺に、身の回りの物買える店ない?」

「車で、十分位であるけど……」

「真、何時頃帰る?」


「部活あるから遅くなるけど…… 買い物行く?」


「できれば……」

「わかった、じゃあ行こう!」


 柚奈は、寝室へ行き出かける準備をした。

 すると、昨日の朝、放り投げた通帳がきちんと鏡台の上に置かれているのが目に入った。


 海斗に残高を見られたのだろうか?