「施術を受けてきたんです」

そう何でもないことの様に、エレンが答えた。

「お前が?」
「そうです。当主になるにあたってのちょっとした決まりのようなものです」

そう言い、エレンが紅茶を一口飲んだ。

「辞令、おりたのか」
「えぇ、つい先日」

エレンが次期当主になることはもう随分前から決まっているも同然だった。
が、ヒューやアーサーから正式な事例が出るまではあくまで「当主代理」でしかなかった。

「とはいえ、すぐに当主となるわけではありませんが」

あれこれやらなければならないことがあるので、とエレンは肩を竦めた。

もしかすると、これがあったからイアンが連絡をしてきたのかもしれない、とダンテは思いいたる。
イアンはここにいないので今は確認できないし、聞いたとて、おそらく彼はとぼけて放そうとはしないのだろうが。

「と、こんな話がしたいわけじゃなかった。なぁ、エレンガッ」

ダンテが本題に入ろうとしたとき、エレンがダンテの口を塞いで阻止した。

「おいこら」

何をするのかと、口を押えていた手をどけてダンテが文句を言う。
対するエレンはダンテと視線が合わぬよう俯いている。