「アンタ、大丈夫か?」
「………大丈夫、少しふらついただけだから」

ダンテの問いに、女は礼を言った。
女がしっかり自分の足で立ったことを確認し、ダンテは支えていた手を放した。
そして、上着のポケットからハンカチを取り出した。

「べっぴんさんが台無しだ」

そう言い、血を拭うように促した。
それに女は少し戸惑ったようだったが、ハンカチを受け取り、鼻を押さえた。

「この辺は売春は禁止だぜ。どういう理由があるかは知らねぇが、ここでの商売はやめた方がいい。こわーいおっさんに見つかったら、鼻血だけじゃ済まないからな」

「それじゃぁお大事に」と、ダンテは何かを言われる前にその場を立ち去った。
これ以上あの場にいては本当に面倒なことになりかねないと判断したからだ。
そうしてそのまま迷わず地上に出た。
無事に地上に出られたことに、無意識に息をつく。

さっさと帰ろうかと歩き始めた時だった。
ヒップポケットに入れていたスマートフォンがバイブする。
手に取って画面を確認するとよく知った番号だ。
ダンテはすぐに通話状態にしてスピーカーを耳にあてた。