『エレンが拉致された』
「……………は?」

ダンテは耳を疑った。
エレンが、なんだって?

『拉致られたんだよ。どこぞの使えねぇお兄さん達のおかげで』

イアンの声に隠し切れない苛立ちが乗る。

『覚悟があるなら、じーさんの屋敷に来な』

それだけ言うとイアンは電話を切った。

ダンテはしばし、スマートフォンを耳に当てたまま動けないでいた。

「おい、大丈夫か?」

常とは明らかに違うダンテの様子に、同級生が声をかけた。

「あんまり大丈夫じゃないが、目は覚めた」

そういうと、ダンテは乱暴な手つきで鞄を掴むと教室を飛び出した。
同級生の声が聞こえた気がするが、そんなことを気にしている余裕はない。

覚悟とか、そういう物を考えるより先に体が動く。
居ても立っても居られなくなった。

生きている世界が違う彼女はいつか自分の手の届かないところへ行くことは最初から分かっていた。
そして、その現実は受け入れてきた。
だが、それは彼女が生きていることが大前提だ。
例え接点はなくなろうとどこかで生きているならそれでいいと。
その横に自分がいなくても別に構わないと、そう思っていた。
だが、今その前提が崩されようとしている。
そんな状況で、ぼんやりなどしていられるわけがなかった。