1話 行こうよ!異世界!


異世界にて暗躍《あんやく》する闇の存在の長。

   魔王

 魔王は基本平和な異世界において悪さをする闇の存在。
 悪さと言っても悪戯《いたずら》とかそういうレベルではなく、それこそ時には人を殺し、時には街を壊したりとする。

 そんな魔王は勿論、異世界の住人から嫌われ、アニメやラノベでは倒すべき存在として出てくる。
 だが、それが自分の可愛がっている妹だったらどうであろうか。そんな事は常人であればまず考えない事である。そして、あの時までは高木将生《たかぎしょうせい》もそんな事になるとは全く予想していなかった。


              *


「お兄ちゃーん!勉強教えてー!」
「おう!いいぞ!」

 リビングで向かいに座っていた将生は妹ーー高木悠楽《たかぎゆうら》の隣へと座り直す。

「何が分かんないんだ?」
「えっとねー、ここ!」
「どれどれ?......ってお前、それ保険体育じゃねーかよ!」
「そ~なんだよ〜。でも私バカだから口だけじゃ分かんないなー?」
「じゃあ何で教えればいいんだよ」
「それはもちろん、か・ら・だ♥」
「断固断る!」

 悠楽の兄妹とは思えない発言は良くある事だったため将生は軽くスルーした。
 まぁ元々血の繋がりは無い訳だが。

「そーいえばお兄ちゃん、異世界すっごく好きだよね?」
「おっ、どうした急に?」
「いや、なんとなーく昨日お兄ちゃんの部屋入ったら異世界モノのラノベがいっぱいあったからさ」
「ふむ、勝手に俺の部屋に入った件は後でゆっくりお話するとして、そうだな。異世界モノの話は大好きだ!」
「じゃあ、やっぱり行ってみたい??」
「まー、そりゃーなー。 行けるなら行きたいよ。異世界行ったらチート能力でガンガン強くなって魔王を倒す勇者になりたいな!」

 将生が何気なく異世界願望を言うと悠楽は青ざめた表情になり、

「お、お兄ちゃん魔王倒すの!?勇者とか趣味悪いよ!」
「いやーそうか?普通は勇者になってチヤホヤされたいものでしょ」
「ふ、ふーん。軟弱弱気なお兄ちゃんがどうやって魔王を倒すのさ」
「軟弱弱気ってお前......。それは勿論勇者らしく剣でひと突きだな!」
「ヒィィ!剣でひと突き!?」
「なんでお前が怯えてんだよ」

 震えはじめている悠楽は恐る恐ると口を開く。

「異世界に行った時、魔王軍でもお兄ちゃんはいいの?」
「?変な質問だけど俺はそれでもいいかな」

 悠楽の顔がパアァ!っと明るくなる。

「そ、そっかぁー!魔王軍でも良いんだ!」
「う、うん。まあな」
「じゃあさ!行こうよ!異世界!」
「......は?」