びっくりして上を見れば、赤い無地の傘があって。



導かれるように後ろを振り向けば見知らぬ女子がいた。




まっすぐに僕を見る瞳に、黒い髪。




闇に覆われた世界で今まで何も美しいと思わなかったのに。




自分で意識するよりもずっと早く、無言で僕を見つめるその瞳を、…美しいと思った。





「……君は、」


「レナ。あなたまさかびしょ濡れで帰るつもり?」


「傘がないんだ。」


「…そう、じゃあ入っていいよ。ていうか目の前でびしょ濡れで帰られても困るから。」




“レナ”と名乗った彼女は、そう言って歩き出す。



それに合わせて僕も一歩二歩と足を進めた。