「鏡よ鏡。真実を教えておくれ。

 この世の中で最高に美しい娘は、

  どこの誰なのだ。答えておくれ。」


母の日課は、部屋の壁に掛けられている

大きな姿見に問いかけることだった。

なんでもその鏡は、真実のみを告げる魔鏡。

毎日毎日、おんなじ事ばかりを繰り返し鏡

に尋ねていた。

そしてその答えを、鏡が


「それは貴女の娘、カタリーナ姫です。」


と、答えると安心し、満足げに当たり前だと

言う様に頷いて姿見の前から離れる。


しかし、私が116歳を迎えて、突然"その時"は訪れる事となった。

何という事だろう。あの真実のみを告げる魔

法の鏡が、ある夜この世で一番美しい娘は

私ではないと言ったのだ。


「それは、この城下にある街の名もない針

子の娘。太陽の如く輝く金髪…薄紅の頬…肌

は雪の白さです。アンバーという110歳を迎

える歳若く、可憐な娘。彼女こそ…この世で

最高に美しい。」



その答えを聞いた途端、母は出かける支度

をして私を連れ出した。


私の国はドラキュラばかりの朱の国。

朝日だけは苦手なこの国の人々は基本、皆

夜行性で、街は夜の方が活気が出て、朝だけ

は街ごと国が静かになる。

勿論今日も例外無く街はランプの灯りが揺

れて、人々は買い物や談笑を楽しんでいた。 



「カタリーナ様、林檎、受け取って下さいな。」
「カタリーナ様」「カタリーナ様」
「お姫様」「カタリーナ姫」


…私を見つけると、皆ひと目見ようと寄って

来る。普段は何とも思わないそれも、今日

は何故か無性に哀しくなった。