「おい、大丈夫か?
まさか、台詞忘れたとか…」

「大丈夫です。
台詞は全部入ってます」

深呼吸して、舞台の中央に立つ。
スポットライトと注目を全身に浴びる。

とある男女が離ればなれになって、それぞれの道を進むと決めた。
もう会うことはない。
心が苦しいけど、後悔の無い選択。

どれくらいこの状況をイメージできるか。
どれだけ気持ち乗せられるか。

…わかんないよ。
そんな経験したことないんだか、ら…。

歌いながら、手をのばしたとき、手首に目が止まった。

ブレスレットなんてしてたっけ?

“忘れない”

瞼の裏によみがえる、にこっと笑う男性。

永遠の愛を誓う、という歌詞を口にしながら、フラッシュバックのように、鮮明に全てを思い出した。