ちっ。
考え事をしてたら、もう着いてしまった。

ここは俺が入ることを最も拒否したい部屋。

この部屋の中にいる人物を思い浮かべただけで嫌気がさす。

「失礼します」

「おぅ、待っていたよ、ナツキ」

優雅にグラスに入ったワインを傾けているこの男こそが、2つ上の兄だ。

そして、ドルツ王国の第一王子。

この兄のせいで、俺は国王の座につくことは許されない。
しかも、第二王子という肩書きを押し付けられながら、高い結果を当然のように求められる。

兄に劣った結果を出すと、弟だからとバカにされ、兄よりも良い結果を出そうと努力すると、余計なことをするなと睨まれる。

俺はいつも、兄の作った枠の中で最善の結果を出さなきゃならなかった。

「隣国を支配しようと企んでいたようだが、失敗したのか?」

「いえ、支配しようと見せかけていただけです。
本当の目的は、ある女の拉致にありました。

ドルツにとってかなりの利用価値があるでしょう」

「失敗はしてないということか。
ならばよかった。

崩れかけの王国一つ落とせないなど、ドルツ王子失格だからな」

「…」

こういう嫌味な所、いつか叩き潰してやる。
この男を叩き潰せるなら、リンタールの支配など、最早どうだっていい。