交通事故で救急搬送された日、悠妃は僕とのデートの帰りだった。

僕と別れた直後。

僕がさよならと手を振った数秒後。

悠妃は僕の目の前でトラックにはねられた。

横断歩道は青。

前を向いて歩いていた。

イヤホンはつけてない。

なんの落ち度もなかった。

トラックだけが突っ込んできた。

僕はパニックになりながら、救急車を呼び、悠妃に付き添って病院へ運ばれた。

救急車の中で、今日ほど目の前の現実が夢であることを願う日はないだろうと思った。

悠妃は頭を強く打ち、複数箇所骨折をしていたが、命に別状はなかった。

それから三日後、悠妃は無事目を覚ました。

嬉しさのあまり、僕は悠妃を抱きしめ、唇にキスをした。

笑顔で悠妃の顔を見ると、今まで見たことがないくらいの恐怖の色に染まっていた。

「……だ…れ…?」

悠妃の怯えた表情と、そのたった二文字に、僕の中の何かが壊された。

三日前、あれほど夢であることを願ったのに、今それ以上に現実であることを恨んでいる。

悠妃は、中学以前の記憶はあるものの、高校以降の記憶は全て無くなっていた。

高校で出会った僕なんて、今の悠妃とは出会ってないのだ。

僕は自分が高校からの彼氏であること、事故の日もデートしていたこと、結婚の約束もしていたことを伝えた。

悠妃はそれなら、と目が覚めた時の僕の行動に納得したが、それでもどこか僕を疑っているみたいだ。

「記憶を失ったのなら、もう一度思い出も作り直そう、もう一度僕とお付き合いから始めてほしい」

悠妃が目を覚まして一週間が経った頃に、僕はそう言った。

「もう一度、お願いします」

悠妃の言葉に舞い上がった僕は、もうすでに立ち直っていた。

そうだ、記憶が無いならまたもう一度作り直せばいいんだ。

以前した失敗を繰り返さないように、今度はもっとかっこいい彼氏になろう。

そう思っていた矢先。

半年くらいして、思い出も信頼も取り戻してきた頃に、また起きてしまった。

悠妃の記憶喪失。

何が原因かはわからない。

頭をぶつけてもなければ、記憶をなくす原因になるようなことなんて何もなかった。

医者からは後遺症で、今後も起きる可能性があると言われた。

二度目の記憶喪失のとき、以前と同じように高校以降の記憶は綺麗さっぱり無くなっていた。

もちろん新しい僕も。