「おはよう」

病院のベッドで静かに目を覚ました悠妃に、僕は優しい声音で話しかけた。

「わたし…」

悠妃は夢でも見てるかのような顔をして、僕の顔を見つめた。

「悠妃は事故に遭って、三日間ずっと眠ってたんだ、覚えてる?」

「……全然、覚えてない」

悠妃の瞳は、まるで僕のことも知らないと言っているようだ。

「僕は烏森黎都、悠妃の彼氏だよ」

「ほんとに?」

悠妃は疑いの目で見て、「そんなことより」と話題を変えた。

「お父さんとかお母さんとか、来てないの?」

「悠妃、君の両親は悠妃が8歳の時に事故で亡くなってるよ」

悠妃はそれを聞いてさほど驚くわけでもなく、僕から目をそらして窓の外を見つめた。

とても遠くを見つめているような眼差しで、口は固く閉ざされている。

「悠妃…」

「からすもり、くろと」

僕が話す前に悠妃が僕の名前を呼んだ。

「わたしの苗字は何?」

「白石」

本当に何もかも、忘れてしまったんだ、君は。