「そんなことない」

 「そう、かな……」

 功太君がこっちに近づいてくるのがわかった。
 自然と、自分の足が後ろに後ずさる。

 「ねぇ、柚月さん」

 名前を呼ばれて顔を上げる。
 まだ少し苦しそうな顔をした功太君が、そこにいた。

 「……僕は、柚月さんが苦しんでるところを見るのは嫌だよ」

 その言葉に、私は目を見開く。

 「……どうして、そんなこと言うの」

 今まで関わった事なんてなかったのに。
 私は今日、功太君とよく喋っている。
 というより、功太くんの方から関わってくるんだ。
 落ち着いた、それでいて力強い声で、真っ直ぐな瞳で私を見つめ返してくる。