それからしばらく、私は座り込んだまま動かなかった。
 知らないうちに、コンクリートに小さなシミができている。
 左腕につけたシンプルな腕時計を見ると、あと10分ほどで昼休みが終わるところだった。
 立ち上がると袖で目をこする。
 濡れたものが触れて、やはり泣いていたのだとわかる。

 「……こんなに、苦しいなんて」

 思わなかった。
 こんな思いをするくらいなら。

 「もう、恋なんてしなければ……」

 そうだ。恋なんてしなければいい。
 ……それに、丁度いいじゃないか。
 この際、人の恋を応援する側にまわろうかな。
 それなら、私は直接辛い思いをしなくてすむ。
 これでいい……。
 私はおぼつかない足取りで扉を開け、屋上からの階段を下へおりた。

 教室に入る前に、もう一度しっかりと涙を拭う。
 笑顔を作ると、何もなかったように教室へ入った。