「大盛況ですね」

「…本当、今でも信じられないです」

「それだけ、魅力にあふれているのでしょう」



横を確認すれば、林さんも私が見ている方向に視線を向けていた。

それは甲高いものではなく、年相応に渋みのある女性の声。

垂れ目な瞳をさらにおっとりと下げる彼女はしばらく私と一緒になって、フロアを行きかう人々の姿を眺めていた。

心の底から感慨に浸るように。



…彼らは、


―彼らはどんな思いでこの場に訪れたのか。

―彼らはどんな思いを抱き、この場を去っていくのか。

―何を求め、何を得て、どんな道を歩むのか。




「私だけの力では、ないんです」



そんなことを思っていると、ぽろりとそんな言葉が勝手に口からこぼれてくる。

――—私だけとは?

不思議そうに小首を曲げる林さんは、職業柄なのか、革の鞄からごく自然な手つきでノートブックを取り出した。

使い古されたリング型のノートブックだった。