ーーーーゴゴゴゴゴ……。

人一人がようやく入れる狭いコックピット外部から、けただましいエンジン音が競うように鳴り響いてくる。




『成層圏突破までーージーッ、あと10km』

「了解。速度を上げる」

『中間圏に入り次第ーーージーッ、そのまま一気に外気圏まで上昇』

「……了解。それまで通信を切る」




案内システムのスイッチを切ると、途端に押しつぶされそうな衝撃が身体全体におしかかってきた。

速度が増すごとに増加する質量、そのぶん後方に引きずられる重力も強大になった。

……汗が一つ流れる。

まったく、何度経験してもこれに慣れることはないのだな、と苦虫を食ったような変な笑みがこぼれた。



空気抵抗で揺れる機体。
鉛のように重い身体。
ところどころ金属が軋む音がする。

張り付くように身をあずけている操縦席。それは、普段から乗り慣れているはずなのに今回はひどく固く冷たいように思えた。

以前からこうだったか。

毎日搭乗していた時には思いもしなかったことだ。これほど座り心地は悪かったか。



いや、ーーーー違うな。そう思ってまた小さく笑った。

あの、柔らかい眠りを誘う“折りたたみ座椅子”とやらにこちらが慣れすぎてしまっただけか。






ピピ…ピピ…、と何処からともなく聞こえてくるシステム音。

四方八方機械でしか成り立っていないこの無機質な室内で、その音はやけに耳にしみついてくる。

気を、引き締めなくてはならない。レバーを握っている手の力が強くなった。

後方にある丸窓の外を見れば、まだ太陽が昇っていない、雄大な夜空が広がっていた。




視界の平行線上に無数に輝く星が見える。

下方にも同じように、ポツポツと煌く灯台のあかりが見えた。


三日月型に伸びる湾岸。

高くそびえたつ緑多き山々。

自然豊かな、田舎町。

その上空に、弧が一つ描かれる。




そして―――今もそこには……、