そう……あれは、高校受験の当日だった。

 試験開始直前。私は、大事な消しゴムを忘れたことに気づいて、一人でパニクっていたんだよね。

 小学校で六年連続忘れ物クイーンに輝いた私。この時ばかりはそれを発揮しちゃいけないと思って何回も持ち物チェックしたのに、見事にやってしまったと。

 同じ中学の人もいないから、頼れる人もいない。その上、試験の緊張で試験官にも言うことも出来ずで。もう……オワタと絶望しかかったんだよね。

 そんな最大のピンチを救ってくれたのが、隣の席にいた春川君だった。

 春川君は私のピンチを察知して、試験官に気づかれないように、自分の消しゴムを半分に割って私にくれたんだ。


 その時の春川君の優しさと笑顔で、私は恋に落ち――

 ついでに、受験にも落ちた……。

 なんてことはなかったけどね。そこは見事合格。こうして高校に入学することが出来たというワケ。

 残念なことにクラスは違うけど、今みたいに私を見掛かけただけで話しかけてくれるんだぁ。

 教科書を忘れたら貸してくれるし……あ。あと、絵の具セットも貸してくれるし……あ。あと、ジャージも貸してくれるし。

 こんな忘れっぽくてどうしようもない私に、嫌な顔一つしないでいつも優しくしてくれるから、私の胸はもうキュンキュンしまくり。春川君への想いは、日に日に募(つの)りに募っていくばかり。

 出会ってまだそんなに経ってないのに、何年・何十年分ぐらいの気持ちが溢れているみたい。