四月から私は大学生活が始まる。大学は自宅から離れた隣の県。もちろん引っ越すことになった私だが、引っ越し先には私だけじゃない。

「この箱、お前の?」

そう。これから始まる新生活は一人暮らしではなく、二人暮らしだ。

「あ、うん。それこっち」
「おっけ。あと大きいのだけだから中で荷解きしてて」
「りょーかい」

さらにその同居人は私の彼氏

「ほんとよく動くなー亮は。いい旦那見つけたな夕紀」

……ではないんです。

「はいはい、んじゃあたしは先中で片してるよ」

にこやかに引っ越しの手伝いをしてくれてるあたしの父さんの声を背中に玄関をくぐる。2LDKのアパート。一部屋はあたしの、もう一部屋には亮が住むことになった。二人分の荷物を分類して収納スペースにしまっていく。その間に父さんと亮で洗濯機から冷蔵庫まで運び込んでいた。

「大体終わったかな」
「亮がよくやってくれたからずいぶん早く終わったなー。ありがとうな」
「いえ、こちらこそ軽トラで往復させてしまって申し訳ないです」
「いいんだよ、そんなの。うちのわがまま娘をよろしくな」

わがままで悪かったね、と心の中で毒づきながらも黙々と片づけを続ける。陽気で機嫌のいい父さんの声とさわやかに笑う亮。しばらく談笑していたが、やがて

「じゃ、やることもなさそうだし父さん帰るわ」
「すみません、ありがとうございました」
「また来るからなー!ちゃんとしておけよ?」
「はいはい、わかってますー」

引っ越しの荷物を載せていた軽トラックに乗って帰っていく父さんを見送って、あたしたちはまた荷解きを再開した。

「ねー夕紀」
「なに」
「いつまで俺こうしなきゃいけない?」

そう、亮はあたしの彼氏じゃない。

「仕方ないでしょ。ここに住むの決めちゃったんだから」

亮はあたしの『元』彼氏。

「あーあ、俺夕紀の親にも俺の親にも嘘つかなきゃいけないなんて心が痛いなぁー?」

わざとらしく辛そうな演技をする。そんなのはあたしだって嫌だ。でもそうせざるを得ないのだ。

「誰のせいで誰のためですかぁー?」
「う……でもお前だってうちの親父には心配かけたくないって……」
「誰が悪かったんですかぁ?」
「だから謝っただろ?なぁ、だから俺と」
「戻らないから」

あたしたちは引っ越しの直前に別れた。同居することが決まった後に。今更そんなこと親たちに言えず、こうして別れたことは伏せて付き合ったふりをしている。
そんな変な生活が始まったあたしたちだった。