「ヒロさん!落ち着いて!私は大丈夫です」

そんなヒロに懇願するように言った綾乃に、今度はカズが苛立ちを見せた。
「綾乃!お前も仕事なんだからヒロに泣きつくような真似してんじゃねーぞ」
「そんなことしてないわよ!勝手な事言わないでよ!」

綾乃は熱くなってきた瞳から、涙が零れないようになんとか言うと、カズを睨みつけた。
「じゃあ、なんでこんな風にかばってもらうような真似してるんだよ?逃げてるんじゃねーぞ」

逃げるという確信を付いた言葉を言われ、綾乃は言葉を詰まらせた。
今まで、両親からも姉からも逃げてきただけだと言われたようで、綾乃の心の中はドロドロと渦が巻くように、真っ黒に飲み込まれていった。