「綾乃ちゃんはいりまーす!」
その声に、和弘は綾乃を見た。
真っ白のシンプルなワンピースを着た綾乃はまた別人のようだった。

「綾乃ちゃんは、ヒロに片思いする役どころだから、海にいるヒロをじっと見つめるところからね。そしてヒロはゆっくりと振り返って綾乃ちゃんを見て」
監督と言葉で演技が始まり、その様子を和弘は複雑な気持ちで見ていた。

(なんなんだよ……この気持ちは)
弘樹と綾乃が目を合わせて綾乃が恥ずかしそうに笑うその様子をただ見つめていた。

(弘樹だとあんな風に笑うのか……)

カットがかかり、弘樹がそっと綾乃の髪に触れた。
遠くから見ても、綾乃が恥ずかしそうに俯く姿が和弘の目に入った。

(なんだよ……綾乃の奴)

「和弘!」
麻衣子の声に和弘は我に返り、麻衣子を見た。
(綺麗で大人な女……俺はこういう女が好きなはずだ)
和弘は思考を戻すと麻衣子に微笑んだ。
「さっきのシーンよかった」
「そう?ありがとう。和弘が見てくれてるから頑張らないとね」
そういった麻衣子の腰を引き寄せると、和弘は麻衣子の耳元で囁いた。

「これからも頼むよ」
ニヤリと笑った和弘と、妖艶な微笑みを湛えた麻衣子を綾乃はじっと見ていた。