綾乃はイライラしながら受付に封筒を置いて帰ろうとしたところに、

「綾乃!」
と呼ぶ声が聞こえた。
その声の方を見て、おもむろに封筒を差し出した。
「悪かったな。ありがとう。」

「竹田さん、おはようございます。」
「おう、ヒロ、カズおはよ。」
父は、さっきの2人に声を掛けた。

綾乃は、一言も発することなく会社を後にしようと踵を返した。

「竹田さん、その子は?」
ヒロと呼ばれた、さっき綾乃を支えた男の人が聞いた。

「あっ!これうちの娘。忘れもの届けてもらったんだ。」

「父はにこやかに笑った。

「え!?」
2人は驚いた顔で綾乃の方を見た。

(― 言いたいことは解ってるわよ。)

綾乃は何も言わず、帰ろうとした。

「綾乃、せっかく来たし、こうして2人に会ったんだから、ちょっと見て行きなよ。」
父は言った。
「いい。」
綾乃は父の方を見ずに言った。