「こっちもいいね。どっちがいい?作曲はあなただから。ざっとピアノつけたけど、あなたのイメージから外れていない?大丈夫?」
「和弘。俺の名前。」
「え…?」
「あなたじゃないから。」
綾乃は黙っていた。


「みんな、戻ったな。じゃあ、Aメロから一度合わすぞ。」
隼人の声が響いた。
「綾乃、ちょっと早い!ドラムもっとそこテンポ上げて。」
的確な指示と、
「すみません、やっぱりここのコードこっちで。タクここ変えれる?」

カズはさっき綾乃に指摘されたところのコードを変更した。
「ああ、こっちの方がいいな。」
隼人も言った。

(- 悔しいけど、断然こっちだ。)
カズもそう思った。

「Ok!最高!」
5時間後、隼人の声が響いた。

綾乃は大きく息を吐いた。
「じゃあ、あたし帰ってるから。」
綾乃はいつものように、抑揚のない声で父に言うと、スタジオから出た。

「あれ?竹田プロデューサーあの子は?」
ヒロが聞いた。
「ああ。もう帰った。」
カズも驚いた顔をした。
「帰った?」
「悪いね。愛想のない娘で。」
隼人は苦笑した。

カズは繊細で優しい、それでいて力強く響く綾乃の音が耳から離れなった。