自分自身への罪悪感があるのかもしれない。


立ち上がった久志はあたしを見て怯えた顔をしている。


久志はあたしの事を怖がっているのだ。


当然だった。


女子トイレで汚れた水を久志にかぶせたのだって、あたしだとバレているはずだ。


あたしは千円札をギュッと握りしめ、その拳を久志へ向けて突き出した。


久志は自分が殴られると勘違いしたのか、咄嗟に目をきつく閉じていた。


そこまでか。


反射的に怯えてしまうほど、久志は日常的に暴力を受けてきたのか。


その事を知らなかった自分が腹立たしく、そしてなにも知らなかった自分がショックでもあった。


あたしは本当に、同じ教室にいながら何を見ていたのだろうか。


なにも見ずに、聞かずにいて毎日に退屈をして、自殺までしてしまったのか。


なんて滑稽なんだろう。


自分のことなのに呆れてしまって、思わず笑ってしまった。


その笑顔を見て、久志はまたビクリと身を震わせた。


「このお金、返すから」


あたしはそう言い、久志の手に千円札を握りしめさせると、公園を後にしたのだった。