残されたのは、あたしと久志の2人きりだった。


久志は地面に倒れたまま動こうとしない。


蹴りつけられ、踏みつけられた体が痛むのかもしれない。


あるいは、その心が痛くて痛くて、起き上がる事もできないのかもしれない。


あたしは久志のすぐ隣に立ったままなのに、なにもできなかった。


手を差し伸べることも、声をかけることもできないまま、時間だけが過ぎていく。


やがて、ホームルームの5分前を知らせるチャイムが聞こえて来て、あたしは呪縛から解放されたようにハッと我に返った。


「学校、始まるよ」


久志の弱弱しい声が聞こえて来て、あたしは視線を地面へと戻した。


久志は自力で立ち上がり、埃をはらう。


だけどボロボロのままじゃ学校にも行く事ができないだろう。


これからどうするんだろう?


家に帰るんだろうか?


もし着替えが必要なようなら、教室へ行って久志の体操服を持って来てもいい。


頭の中ではそう考える事ができるのに、なぜだか口に出す事ができなかった。