☆☆☆

あたしは死ぬ前に自分の気持ちを誰かに伝える事がなかった。


1人で自分の生きている世界に鬱々として、絶望して、どうでもよくなって。


そして1人で決断して飛び降りた。


だけど、その後になって色々な事が見えてきていた。


早苗を悲しませたくないと思う自分がいる。


それは両親へも向けられた感情だった。


両親への不満を抱いたことは今まで1度もない。


2人には、ちゃんと伝えておかなきゃいけないことがある。


それが、どれだけ言いにくい事でも。


あたしは少し早めに起きてお母さんと顔を合わせた。


あれだけ怒っていたお母さんが、今日はもう優しい。


「お母さん」


朝ご飯を食べながら、洗い物をしている背中に声をかける。


「なに?」


「今日、学校から帰ったら話がある」


そう言うと、お母さんは一瞬だけ手を止めた。


だけど振りかえらないまま「そう。わかった」と、言ったのだった。