―――優さん、来てたんだ
一人固まる私に気付くことなく、兄が戻ってきて話しかける。
「さ、名刺持った?」
はぁ、とため息をつきながら立ち上がる。
優さんの姿は見えなくなっていた。
ここは、仕事。
と、気を引き締めて兄と取引先や、関連会社の人に挨拶に回る。
私が昇進したため、顔見せになる。
サイタ家の顔として、笑顔で挨拶をする。
ほとんどの人に挨拶を終えて、ドア付近の壁に兄と並んでひと休みする。
「お兄様、ちょっとお手洗いに」
と断り、トイレに抜け出した。
用を済ませ、会場に戻ると同じ場所で兄が数人の人とにこやかに話しているので、離れていようかと思っていると、兄と目が合い、と手招きされた。

