その後、西崎がいない日には私と藤原で帰ることが多くなった。

確実に距離を縮めてると思う。相変わらず無口で無表情だが、時々、彼は顔を赤くしたり、自分から話をしてくれる。私への好意は、少なからずある。


これで一安心だ。また、昔みたいな地獄を味わう心配はない。



そんなことを考えながら、ぼーっと藤原と帰っていた時だった。





前からやってきて急接近してくる車のクラクション音が私の鼓膜に突然響いた。

隣を見たら、藤原が車道の中を歩いていた。気づかずに、歩道から離れてしまったのだろう。


私はとっさに、「藤原ぁ!!」と叫び、彼の袖を掴んで思いっきり自分の方へ引っ張った。

私たちは歩道で倒れこんで、車は隣を通り過ぎていった。

私は顔を上げ、大丈夫?、と聞こうとした。しかし、彼を見て私は言葉を失った。




彼は、いつもは閉じている瞳を大きく開けていた。

彼の透き通った栗色の瞳は吸い込まれそうなほど綺麗で、まるで宝石のように純粋だった。
そして、藤原は、その綺麗な目から静かに、大粒の涙を幾つか流していた。声も出さずに、ただただ透明な雫が、彼の頬を伝った。



ようやく言葉を取り戻した時には、彼はいつも通り目を閉じていて、倒れた衝撃で離れてしまった杖を手探りで探していた。


私は彼の杖を拾い、彼の手に入れた。「はい。・・・大丈夫?」

藤原はいつもの淡々とした表情で、「うん、ありがとう。」とだけ言った。彼の頬は、涙が通った筋だけが少し反射で光っていた。



そして普段より少し低かった彼の声は、微かに震えていた。