私は火曜日の放課後、席から立ちあがろうとしていた藤原に声をかけた。

「藤原くん、一緒に帰らない?」


火曜、木曜、金曜は西崎は部活だ。普段は一緒に帰っているが、藤原はこの曜日の時は一人で帰るのだ。

「西崎くんが部活の日、藤原くん一人でしょ?なんとなく心配になっちゃってー・・・それに私、もっと藤原くんと話がしたいんだ。」

私はできるだけ声に感情を込めた。やはり見た目に頼らないのは慣れてなくて、辛い。これを続けられるか、正直心配だ。


彼は少し黙ってから、「わかった。」と言った。





「藤原くん、なんで見えないのに校舎の中歩けるの?私だったら、壁にぶつかったり階段でこけてばっかだろうな〜!」

学校を出てすぐの道を私たちは歩いていた。彼は基本無口だから、私から会話を出さなければならない。こいつはどこまで面倒くさいんだ。

彼は杖を振りながら歩く足を止めて、鞄から下敷きみたいな薄いプラスチックの何かを取り出してそれを私に渡した。

「・・・校舎の図面?」

それは、校舎の地図で、壁や階段のところに凸凹がついていた。

「それで歩数を覚えるんだ。ここの廊下は何歩、ここの階段は何段、ってね。」

「へー、すごい!全部覚えてるんだ!記憶力いいんだね!」


彼は私の方へ向けていた顔を逸らした。

「・・・普通だよ。」


その横顔は、一瞬少し赤くなっている気がした。