しばらく沈黙が続いた後、野上が口を開けた。
「・・・えーっと、藤原は生まれつき全盲だそうで、先月まで盲学校に通っていた。なんか質問は?」
それまで驚気を隠せずに黙っていたクラスが、少しざわめきを取り戻した。
西崎が手を挙げた。「見えないってどんな感じ?」
転入生の藤原は彼の声の方に顔を向けて、「さあね、見えるってどんな感じ?」とはっきりと聞き返した。
西崎はびっくりした顔をみせるも、すぐに笑顔を見せた。「さあね。」どうやら彼のことを気に入ったみたいだ。
次は千尋が聞いた。「いつも目、閉じてるの?」
彼は、「うん、使わないもののために無駄な筋肉使いたくないし。」といい、千尋は「ふーん」とだけ言った。
私には、クラスの人気者として空気に乗る責任がある。だから私は聞いた。
「藤原くんの好きなタイプってなに?」
私はあえて目とは関係のない質問をした。ここで藤原のなかの私への株が一気に上がるはずだ。しかもタイプを聞くことで、彼に興味があると思わせられる。彼はクラスの一員となる、つまり一年間仲良しごっこをしなければならない。彼は面倒臭そうだ。面倒なことは先に済ませておく。これが自分のポリシーだ。
彼は私の方に顔を向けた。
「・・・そうだなあ」
彼は、細く微笑んで言った。
「素直な人、とかかな。」

