藤原と階段の裏で会って話してから早くも一週間が過ぎていた。しかし、あの日そこに通うと約束したものの、そこへ一度も足を運ぶことはなかった。
もちろん、藤原といるのは楽だったし、またああいう風に話したい気持ちは山々だ。
けれども、私はあの階段裏へ行けずにいた。
それは、あの日の晩から始まったことだった。
藤原と約束を交わしたその日の夜、私はどうしても寝付けなかった。今までになかった自分の仮面人生の急展開に動揺していたのかもしれない。
寝れたとしても、小学校の頃の夢が出てきて、すぐに飛び起きる。そして、また寝ようとするが、なかなか寝れない上に、寝たところでまた同じような夢が蘇ってくる。しかも、それはどんどん鮮明になって行くのだった。古びたタイルも、反響する奴らの声も、毎回現実味を増して行く。
これの繰り返しで、結局その晩は一睡も取れなかった。
次の日の朝は、予想どうり、クマがひどかった。できるだけメイクで隠そうとしたが、限界があり、適当なことを言ってごまかそうと決心して家を出た。
今日から西崎たちからも、可奈と千尋からも離れることができる。少しの時間だとしても、藤原と、ありのままの自分でいることができる。その考えに私は気分を弾ませた。
しかしその一方、そんな人生はうまくできてない。そんなに都合よく収まることなどあるはずがない、そういう不安を心の片隅に抱いていた。
そして、私のその不安は見事に的中した。

