「遅い、真菜ちゃん!!もう授業始まるよ!」

私は教室に戻って、なぜかびっくりして固まった。頬を膨らました可奈と千尋が私に近づいてくる。

一瞬脳の思考が停止したのを感じたが、反射的に笑顔を作り、「ごめん、トイレ行ってて。」と言った。

二人は、しょうがないなぁ、という顔を見せて、すぐに違う話題で盛り上がり始めた。


私はゆっくり一息ついた。



さっきまで藤原と一緒にいて、素直になれる、変われる、なんて考えていて、まるで自分は生まれ変わった!みたいな気分だった。

けど、実際は何も変わってない。

教室に戻れば、私はまたみんなの『真菜ちゃん』になる。可奈と千尋は親友ぶってきて、西崎や他の男子たちは私のことを舐め回すように見つめてくる。


意心地が悪くて仕方がない。



クラスの奥の方の扉が開き、藤原が杖を持って入ってきた。初めの頃は、クラスの人たちは彼の鉄の杖の音によく反応していたけど、今では誰も気づかないようになった。

彼は驚くほど薄い存在感で自分の席に着いた。そして、点字で書かれている本を出して、感触で読書を始めた。



また、戻りたい。あの小さい、二人の空間へ。性格も見た目も気にせずに、ありのままの自分を出せていた、あの時間に。

たったの数分前のことなのに、遠い夢のことだったように感じる。



「真菜ちゃん?どう思う、やっぱり一組の中田君の方がイケメンだよね!」

千尋の声で我に帰り、私はまたもや瞬発的に作り笑顔を見せて、「う〜ん、どっちもイケメンで選べないな・・・!」という答えを絞り出した。

「やっぱそうか〜。それでも私は四組の池田君派!」可奈が大声で主張し、またもや二人の議論が始まった。私は二人の会話を聞きながら、笑顔でうなずき続けた。



あぁ、息を吸いたい。心から。