昼休みになり、私は暇を持て余していた。
いつもなら、こういうときは違うクラスを一つずつ回って、そこにいる人たちと喋ったりとする。しかし、今日の私には違う考えがあった。
私は普段行かない、第一校舎へと向かった。
言った通り、藤原は一番下の階段の裏にある真っ暗な、小さな空間で一人で座って、お弁当をゆっくり食べていた。
「あんた、ぼっちじゃん。」
彼はびっくりしないような顔で、私を見上げた。私が来ることを予測していたか、あるいは足音が聞こえたのだろう。
「・・・急に、口調変わるんだね。」彼はぼそりと言った。
「まあね。」私は彼の隣であぐらをかいた。「ばれたのに演技する必要なんてないし。」
「僕が他の人に言うかもしれないよ?」
「あんたはそういうことする人じゃないし、だいたい今のあんたのクラスでの立場でそんなこと言えるはずがないじゃん。」
「・・・そっか。」そう言って彼は昼食を再開した。
少しの間沈黙が続いた。でもそれは、昨日の放課後のような気まずいものではなく、心地よくて、なぜか温かく感じた。
「・・・暗いんだけど。」
階段の裏に照明がついてるはずもなく、私は彼の表情と輪郭を追うので精一杯だった。
「僕見えないから関係ない。」
私は彼の方を見た。「あんた、教室にいた時、いつも誰かに弁当に何がはいってるか聞いてたよね?今分かって食べてんの?」
彼は頭を横に振った。「何入ってるかはさっぱり。好きなものか嫌いなものが出るかは運次第。」
「ふーん・・・。」私は彼の食べる様子を見た。藤原は適当に何かを箸でつまみ取り、口に運んだ。そして、苦い顔をして小さなうめき声をあげた。嫌いなものだったのだろう。それを見て私は少し笑った。
藤原は少しムッとした顔をして、私の方を向いた。「じゃあ、これからは矢崎さんが教えてよ。僕は好きなものを後に食べたい派だから、わかんないと困るんだよ。」
私は一瞬躊躇した。教える、ということは毎日ここに通うということ。藤原と一緒に昼食を食べるということ。
本当は、調子に乗んな、と言って一生この場所に近づかないことが私にとっての最も安全な選択だっただろう。
でも、やっと素直になれる人を見つけた。この人となら、肩の力を抜ける。見た目なんて気にしなくていいし、何より、私は自分を変えたかった。過去に怯えて、仮面をかぶっている毎日が、もう嫌だった。
だから私は答えた。
「・・・こんな暗いと、何が入ってるか私にもわかんないだけど。」
彼は少し口角を上げた。
「そんなの、僕の問題じゃない。」
そう言って、彼はまた弁当箱に箸の先を入れた。

