もちろん、私は藤原と一緒に帰ることはなくなった。
面倒な仕事が一つ減って良かった、と思うはずなのに、なぜか落ち着かない。少し寂しくさえも思える。
なぜだろう。彼はコロッと落ちる他の男子よりの難しくて、私は苦労していたのに。
しかし、彼がクラスから孤立すればするほど、一緒に帰った時に話したことや、あの日見た彼の美しい、栗色の濡れた瞳を思い出している自分がいた。
私は可奈と千尋と一緒に学校を出て、途中で別れた。
手を振りながら彼女らが視界から消えたことを確認すると、私はため息をついて高めの二つ結びにしてある髪を下ろした。そして、バッグから音楽プレイヤーとイアホンを取り出し、音の海に身を沈めて再び歩き出した。
私はヘビーメタル系のロックが大好きだ。特に好きな『チェリー・ロック』というバンドの曲を聴くのが私の日課だ。もちろん、この趣味のことは学校では全力で隠してるけど。
(あなたは今、何を考えているの
どんな気持ちなの
その瞳の奥の言葉を聞かせて
溢れる涙ごと、受け止めるから)
私は少し夕暮れかかった空を見上げながら、旋律を口ずさんだ。
耳に流れ込んでくる歌詞は、私に何度も語りかけてくるように頭の中で響いた。
溢れる涙、か。
私は藤原のあの時の涙を思い出した。
静かに、頬を伝う透明な粒。
あの時、彼はなぜ泣いていたんだろう。あの後も、彼は何もなかったかのように振舞っていたし。ただ単にびっくりしただけなのかもしれない。でも、それよりもあの涙はもっと深かった気がしてならない。
「・・・ああ!ったく、知らねーよ!なんでこんなこと考えなきゃなんねーんだよ!!」
私は空に向かって叫んだ。
気付いたらまた、藤原のことを考えてる自分がとても腹ただしかった。

