奏でるものは~第1部~



翌日


両親も兄も会社に挨拶をするため出掛け、家にはお手伝いの人しかいなくなった。

春休みなので、学校もなく、お稽古先に連絡しようと思っているとき、ふと、姉の部屋に入ってみようという気になった。



姉の部屋に入り、窓をあけた。



きれいに整頓され、チェストに並ぶ家族写真やぬいぐるみは、事故の前と何も変わらない。
姉の匂いがした。


―――勝手にごめん


と心で詫びながら、引き出しを開けるが、何も見つからない。

携帯は事故の時に壊れていた。


お姉ちゃんの椅子に座り部屋を見回した。

登校用の鞄が置いてある。
毎日一緒に登校したことが、思い出される。

日本舞踊で一緒に舞台に立ったこと
二人で食堂で笑いながら食べたこと
茶目っ気たっぷりで励ましてくれたこと

思い出すと、涙が一筋流れ落ちた。

今日は姉の部屋は掃除されてないのかうっすら埃が見える。

誰も部屋に入らないのだろう。

姉が生きていた証拠が、この部屋にはまだある。

でも、もう、この部屋の持ち主が使うことはない。


それでも、時間は過ぎ、朝が来て夜が来る。
自然の摂理は誰がいなくなっても変わらない。
誰かがいなくなることもまた、自然の摂理なのかもしれない。

指輪を取りだし、じっと見ているが、刻印もなく、シンプルな銀の指輪。

ドレッサーの引き出しに戻した。

窓を閉めて部屋に戻ろうとした時。

「お客様です」

と呼ばれた。