奏でるものは~第1部~




夜遅く、和室に引かれた布団に眠る姉の枕元に両親が座っていた。



私は、布団を挟んで両親の向かいに座った。



綺麗な顔で眠る姉に

「お姉ちゃん…」

声をかけると父が姉を見たまま



「何とか、間に合ったよ、連絡ありがとう」


と言った。



言わなければならないことがあった。
伝えなければならないことが。



「お父様、お母様。

お姉ちゃんが私に最期の言葉をのこしたのよ。」


二人とも驚いて私をみた。


「お姉ちゃん、私をみて、苦しそうに弱い声で言ったの

『お父様、お母様、ありがとう』って。

それだけを言いに来たの

それから、これ。」



ネックレスと指輪を見せて、看護師から聞いたことを伝える。


父も母も指輪は知らなかったらしい。

もう一度それらをみて、枕元においた。


「私は部屋に戻るわ。

おやすみなさい

……お姉ちゃん、おやすみ」


驚きの表情のままだった母が、



「歌織、ありがとう」



と言って泣き崩れた。



私は涙をこぼしながら、お姉ちゃんの頭をそっと撫でて部屋を出た。