奏でるものは~第1部~




「か、おり?」



小さく弱い声。



姉の顔の近くに自分の顔を寄せ、ちょっとだけ酸素マスクをずらすと



「かおり、だいすきよ……

お兄ちゃんも……


お父様、お母様……ありがとう…って



………すけ…し、あわせに――」



それだけを苦しそうに言ったとき、病室のドアが開いて、唯歌!とさけびながら、両親が入ってきた。


唯歌は目線を両親に向け、ちょっと微笑んだ。

私はすぐに場所を両親に譲り、じわっと涙が浮かぶのを堪えた。




―――お姉ちゃん

ありがとうって何よ――




唯歌!となんども声をかけ額を撫でる父。

姉の胸の辺りまで乗り出すような体勢で、唯歌、とすがるように呼ぶ母。




その時、姉がそっと目を閉じた。