奏でるものは~第1部~



卒業式前日。

姉との最後の登校を普段通りに歩きながら

「9年間、だね。
毎日、楽しかったね」

姉の言葉に頷いた。

春の風にはまだ冷たい風が、姉の肩より下のストレートの髪を揺らす。

「二人で登校って歌織が小学4年生からでしょ?
2人で電車で行くって、家族会議になったよね、懐かしいなぁ。
お兄ちゃんが高校卒業して、2人で電車で行きはじめても暫く誰かこっそり着いてきてたの知ってた?」

と、私の知らない事実に驚いていると、笑いながら

「お兄ちゃんと家から駅まで行ったこともなんだか懐かしいな。

歌織は凌凛館に行くなら、どうやって通うの?
結構近いよね?」

「ヘヘ…実は、電動自転車!」

「へぇ!自転車通学か。ちょっと憧れる~」

何に憧れて、何を期待してるのか、良くわからないが、敢えて聞かなかった。


小学校に入学した頃、兄は高校生だった。
兄の学校は違うが3人で家から駅まで歩いて電車に乗った。


懐かしく思うと同時に、姉と一緒に通ってきた9年間。
それも今日で最後であり、明日からは懐かしむのか。