「前にもあったな、こんなこと」
わたしとは裏腹に、陵はかなり落ち着いていて、微笑みながらささやいた。
陵の反応を見て、テンパっているのはわたしだけなんだ、と気づかされ余計惨めな気持ちになった。
陵に言われて気づいたが、この前とほとんど同じ状況だ。
夏休みの時にもこんなことがあった。
思い出すと、また頬が熱くなってくる。
「度々すみません」
「...俺からしたらラッキーだったけど」
俯きながら小さくつぶやいた。
「え?」
わたしが聞き返すとゆっくりと視線が絡みあう。
何秒見つめあっただろう。
周りは騒がしいはずなのに、物音一つ聞こえない。
ゆっくりと、吸い込まれるかのように見入ってしまう。
ほんの数秒なのかもしれない。
もしかすると、想像以上に時が立っているかもしれない。
時間がわからないくらいに、意識が飛んでいた。

