ーブーブー
どこからかバイブ音が聞こえた。
陵がポケットからスマホを取り出し、メールを確認した。
薄暗いせいか、画面の明るさに陵の顔が光って見える。
「あ、やべ。そろそろ戻らないと」
戻ってこいと催促のメールが来たのか、陵は立ち上がりながらポケットにスマホを戻した。
「佳奈子も出るだろ?」
陵の姿をただぼーっと座り込んだまま眺めていたわたしに、手を差し伸べてくれた。
「あ、ありがとう」
ゆっくり、そっと触れると力強く、だけど優しく引っ張ってくれて、わたしの体はすぐに立ち上がった。
「なんか名残惜しいな」
頭上から聞こえた言葉に信じられず「え?」と顔を上げてすぐに聞き返した。
その顔の近さに驚き目線を逸らそうとするが、引き込まれるように吸い込まれていった。
薄暗く顔の表情がよく分からない。
呼吸を感じるようにゆっくりと、時が進んでいるかのよう。

