「そうね。さ、さっさと食べちゃって。片付けるわよ」
見るとお母さんもお父さんもとっくに完食していた。
わたしも慌てて口に詰め込んだ。
「ごちそーさま」
逃げるようにお父さんのいるリビングから姿を消した。
ゆっくりご飯なんて食べている暇なかった。
再びピアノの前に腰掛け、鍵盤を見つめ続けた。
ご飯を食べて頭を切り替えようと思っていたのに、ますます闇に飲まれた気分。
時間がないと思って焦るのか、全くメロディーが浮かんでこない。
一週間も余裕があると思っていたのに、全然足りない。
みんなきっとわたしの曲を楽しみに待ってくれている。
期待を裏切りたくないという気持ちと、だけどその思いに追いつかない現実にわたしの心はすっかりと落ちていた。
こんな気分じゃ余計に書けない。
「どうしよ…」
思わずそんな言葉が口から溢れる。
そんな思いとは容赦なしに時計の針はどんどん進んでいく。
とりあえずなんとかしないと。
妥協しながらも指を動かし乱雑に音符を書いていった。

