海外事業部へ資料を取りに行けば――――。



「社長に怒られた?」


「………陽輝が何で知ってるの?」


「噂が立てばね?」



陽輝と小さな声で会話をする。陽輝の資料待ちだ。



「佐伯に、それも副社長へ嫁ぐ意味を理解した?」


「陽輝でも同じでしょ。」


「俺は平社員。副社長の肩書きがある兄貴とは違う。」


「ううん、陽輝の婚約者も注目されるよ。」


「兄貴程ではない。婚約か~、もう無理だね。」


「何が?」



陽輝の視線に気づいて、近くにある陽輝の顔へと目だけを向ける。



「奪うの。」


「…………冗談でしょ。ほら、資料は?」



陽輝へと向けていた目を逸らし、PCへと視線を戻す。



「本当に奪いたかった。だけど義姉貴になるんだね、残念。」


「…………。」



小さな声で会話をする私達の距離は近い。だが近くにいる社員には聞こえているかもしれない。