揺れる車内の空気が重い………


なぜなら私、松井朱里(まつい あかり)の隣に座る彼氏、佐伯尚輝(さえき なおき)が見るからに不機嫌だからだ。



「ちょっと朱里？」


「ん？」


「ん？じゃない。副社長はどうしたのよ。」


「あっ、ああ～。」



前に座るのは同じ秘書課で仲良しの伊藤真央(いとう まお)。


その彼女の肩を抱き寄せているのは真央の彼氏で秘書課課長の佐伯賢人(さえき けんと)。



「ほっとけ、真央。大した理由じゃない。」


「でも………。」


「どうせ尚輝の我が儘だろ。」



前に座る賢人の言葉に反応したのは、勿論、尚輝だ。



「チッ………、朱里のせいだ。」


「はあ？」



尚輝の言葉に隣に座る尚輝を見上げる。私を見下ろす視線は怒りを露にしている。



「朱里、理由は分かってるよな？」


「…………。」


「俺は抱く気満々だった。」



尚輝の言葉に静まり返る車内。