考えてみれば、私は何を期待していたのだろう。そんなことを考えると、無性に気恥ずかしくなってきた。

彼女に何かして欲しかったわけでも、もちろんそれ以上のことを期待していたわけでもない。
ただ、だから何も期待しなかったのかというと…
少しウソだと思った。

だからなんとなく気恥ずかしくなり、また自分の台に集中しようと思った。そうすることで少しでも気恥ずかしさを紛らわそうとしたその刹那…

「はい。」

私の頭の上に何か冷たいものが乗っかっていた。それが何かはすぐにわかった。ジュースの缶だ。
ふと後ろを向いて見上げた。彼女だった。

「さっきのお礼。ありがとね。」

無性に嬉しかった。

『あの時顔がにやけてたわよ~。隠そうとしてたけど、はっきりわかったもん♪』
「うるせっての。でもきっとにやけてただろうな。」

頭の中の結女につぶやく。

その時の私は、同時に少し恥ずかしさもあって…

「俺、コーヒー苦手なんだ。」

そんなことしかいえない自分に嫌気がさした。

「じゃ、あ~げない。」

彼女は意地悪そうにそういって、缶コーヒーをスッと持っていこうとした。この時私は缶コーヒーが欲しいわけではなかった。事実、コーヒーはあまり好きではなかったから。

ただ、その缶コーヒーをもらえないと思うと、ただコーヒーをもらえない以上の寂しさをふと覚えたのである。

「いらないなんて言ってないだろ。ありがと。」

精一杯の言葉だった。
しかし、心の中で何かが弾けた気がした。

「じゃ、契約成立ってことで。」
「は~!何の契約?」
「これからは私のボーナスが成立したら、止めてよね♪」
「は~!!!!!!」

缶コーヒー1本でまんまと買収されたのだろうか、それとも私がそれを心の中で望んでいたのだろうか。
とにかくこれが、さえない私と結女の出会いであった―