インモラルな唇を塞いで

「あ、ここだ」

学校と駅の間、道路沿いにそのカフェはあった。
そこにカフェがあるのは知っていたけれどいつもは反対側の道を歩いているので入ったことはない。
ウッドハウスのような樹を全面に押し出した外観にオープン席の横に観葉植物なんかあったりして、いかにもおしゃれなカフェという感じ。

「ほんとにカレーパンあんのか…?」
「あるよ~!ほら、これ」

床に置かれた四角い看板には白いチョークで今月のおすすめドリンクとメニューが書かれていた。

「『シェフオリジナルカレーパンwithとろーりチーズ&エッグ』。美味しそうじゃない?」
「…入るぞ」

看板を睨み付けたように見つめていたかと思うと先頭切ってベルの鳴る扉を引いていた。
よほど楽しみらしい。

「いらっしゃいませー」

グリーンのエプロンを着けた店員がにこやかに近付いてくる。「2名様ですね」と確認して奥のテーブル席に通された。
中途半端な時間だからか店内は席数の割にまだかなり空いていた。
同じ制服も見かけない。
天井を見ると大きなプロペラが回っていた。映画でよく見るやつ。

「メニューはお決まりですか?」
「えっと、これ二つ下さい」

レギュラーメニューとは別にルミネート加工された今月のおすすめメニューに指をさす。

「かしこまりました。『シェフオリジナルカレーパンwithチーズ&エッグ』お二つですね」

手元の紙に記入したお姉さん店員はメニューの正式名称を読み上げてから去っていった。
これはまだマシだがたまに読むのが恥ずかしい名前を見かけることがある。
それに出くわす度に飲食店ではアルバイトしないでおこうと思ってしまう。

「お前も同じの食べるのかよ」
「だって美味しそうだもん」

手元のラミネートメニューを裏返すとオススメドリンクの写真が貼ってあり、マンゴーシェイクの濃厚さがアピールれていたがマンゴーはあっさりした味しか受け付けない私は「これはないな」と端のメニュー置きに差し込んだ。

しばらくすると白いお皿を二つ抱えた店員が歩いてきた。

「お待たせいたしました」

テーブルに乗せられた瞬間からカレーの良い匂いが漂ってくる。大きめの楕円形のカレーパンは真上に半熟卵が乗っており、その周囲から溶け出したチーズが溢れるようにお皿にまで垂れていた。

「美味しそうー!!チーズすごくない?」

向かいの遊佐を見遣るとさっそく端に置いてある長方形の籠からナイフとフォークを取り出していた。

「はやっ」
「出来立て食べなきゃ悪いだろ」

遊佐が卵にナイフを入れるとチーズの上から黄身が流れ出した。
これは美味しくない訳がない。

急いでナイフとフォークを取り出し、カレーパンを割るようにナイフを入れた。熱々のカレーが湯気を立てて食欲を煽った。
カリカリのパンと濃厚なカレー、とろけるチーズと卵を絡めて口に入れると何とも言えない幸せに口が綻んだ。