「は?絶対やだ」



丸一日スケジュールのない午前中。ニュースでは桜特集をするほどで彼女もそれを見て行きたいと言ってきたが生憎そんなテンションではない。

こん詰めたスケジュールにやっと出来た休みをわざわざ人混みを見るほどお気楽な性格ではないことを彼女も充分理解をしており「だよね」と苦笑い。



「つか、ナニが楽しいワケ?」

「うーん。それは個人差だから分かんないけど、少なくとも春を愛でるために行くんじゃないかな?」

「よけー、意味ワカンナイ」



春を愛でるだの、祝うだの言われても。


べつに桜じゃなくてもよくね?


花自体に興味がないからどんな花がどの季節に咲くかは知らないが、わざわざ脚を運ぶ必要性はどこにあるのだろうか。

その疑問を解決すべく、彼女に問いかける。



「アンタは?」

「え?」

「だから、アンタはなんで行きたいのかって聞いてんの」



テレビで見て行きたいと思うのは勝手だがそれを断られると分かってオレに聞いたことに理解ができない。

オレとは違い我慢強く聞き分けのいい彼女なら、大学の友達にでも誘って行ってきたら良かったのに。


ま、男も居るなら話はべつだけど。



「最近忙しそうだったから、たまにはゆっくり眺めるだけのデートもいいかなと思ったの」

「……」

「ごめん、余計なお世話だったよね」


ポツリと出た彼女の本音に愛しい意外の感情は浮かばない。逃げるようにコップを持ってキッチンへと向かう彼女を背後から抱きしめる。

予想外の展開に頭がついていかない彼女は「どうしたの」と途切れ途切れの困ったような驚いたような声で言う。


かわいすぎか、つか、オレばっかこんな気持ちになってムカつく。



「10分な」

「へ、」

「支度が遅いと行かないから」



オレの言葉を聞いて、わかったと嬉しそうに寝室に戻って行く彼女。上機嫌のようで下手くそな鼻歌まで歌っている。


ナニがそんなに楽しいんだか。


今日は動かないつもりでいたが、彼女のそんな姿を見て行ってもいいかという気分になる。それもこれも全て彼女の所為なのだろう。人に無頓着だったこのオレが笑える。



きっと10分経っても彼女は戻ってこないのだろう。オシャレは時間が掛かるらしいし、それでも機嫌のいい今は文句言うだけで許してやろう。



「ごめんね、待った?」

「2分遅い、次はねぇーから」



ふわりと微笑む彼女の髪から春の匂いが零れ落ち、キラキラと輝き出す。




惚れた弱みというやつか