「アイツ、札幌に行くんだ」
「そっか」
それは風の噂で聞いていた。
「紗枝ちゃんと一緒にいたいからこの町で進学するつもりだって言ってたんだけど、大学から声がかかって……」
「すごいね」
「それで、悩んだ結果行く事にした。ここにいても紗枝ちゃんと一緒にいれないなら辛いだけだって」
「そうだったんだ」
静まり返った空間に私達の声だけが響き渡る。
「アイツに好きだって言ってやれよ。そして引き止めろよ」
「それは出来ないよ。岬君の大切なもの奪うことは出来ない」
「そっか」
「春樹君話してくれてありがとう」
「おう。それじゃあ」
「気をつけてね」
「おう」
話し終えた春樹君は左手を上げて、白くて暗い道の中へと消えていった。


